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大阪地方裁判所 平成3年(ワ)5223号 判決 1994年2月24日

第一事件原告(第二事件被告)

吉田源一郎

第一事件・第二事件被告

奥村組土木興業株式会社

ほか二名

第一事件被告・第二事件原告

山田組こと山田丈二

主文

一  第一事件被告奥村組土木興業株式会社及び同株式会社デネブは、連帯して第一事件原告吉田源一郎に対し、七五万〇五五七円及びこれに対する平成三年四月一〇日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  第二事件被告奥村組土木興業株式会社、同株式会社デネブ及び同吉田源一郎は、連帯して第二原告山田組こと山田丈二に対し、一九一万二八五一円及びこれに対する平成三年四月一〇日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三  第一事件原告吉田源一郎の同被告山田組こと山田丈二、同被告桜井ガス株式会社に対する請求及び同事件被告らに対するその余の請求を棄却する。

四  第二事件原告山田組こと山田丈二の同被告桜井ガス株式会社に対する請求及び同事件被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は、第一・第二事件を通じ、これを二〇分し、その一二を第一事件原告吉田源一郎の負担とし、その六を第二事件原告山田組こと山田丈二の負担とし、その余を第一事件・第二事件被告奥村組土木興業株式会社、同株式会社デネブの負担とする。

六  本判決は、一、二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

(第一事件)

被告らは、連帯して原告に対し、二五〇万円及びこれに対する平成三年四月一〇日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(第二事件)

被告らは、連帯して原告に対し、二六二万二八五一円及びこれに対する平成三年四月一〇日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、信号機により交通整理の行われている交差点手前の道路で、第一事件・第二事件被告桜井ガス株式会社(以下「被告桜井ガス」という。)との契約により同奥村組土木興業株式会社(以下「被告奥村組」という。)がガス工事を実施し、その交通整理を同株式会社デネブ(以下「被告デネブ」という。)が行つていたところ、同道路を進行し、同交差点に進入した第一事件原告・第二事件被告吉田源一郎(以下「第一事件原告」という。)が運転する普通乗用自動車と、交差道路を進行し、同交差点に進入した第一事件被告・第二事件原告山田組こと山田丈二(以下「第二事件原告」という。)が運転する普通貨物自動車とが右交差点において出会頭に衝突した事故に関し、第一事件原告、第二事件原告がそれぞれ他の当事者を相手に損害賠償を求め、提訴した事案である。

一  争いのない事実

次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

1  日時 平成三年四月一〇日午後三時二〇分ころ

2  場所 奈良県桜井市大泉四八番地先大泉交差点路上(以下「本件事故現場」という。)

3  事故車(一) 第一原告が所有し、運転していた普通乗用自動車(以下「第一原告車」という。)

4  事故車(二) 第二原告(以下「被告」という。)が所有し、かつ、訴外森川義春(以下「森川」という。)が運転していた普通貨物自動車(以下「第二原告車」という。)

5  事故態様 信号機により交通整理の行われている交差点手前の道路で、被告桜井ガスとの契約により被告奥村組がガス工事を実施し、その交通整理を被告デネブが行つていたところ、同道路を進行し、同交差点に進入した第一事件原告車と、交差道路を進行し、同交差点に進入した第二事件車とが衝突したもの

二  争点

1  責任原因及び過失相殺

(第一原告の主張)

本件事故発生当時、本件事故現場付近を西から東へ向かつて進行する自動車は、いずれも信号とは無関係に、訴外警備員の指示により停止又は進行していたのであり、第一原告車の先行車も訴外警備員の指示により停止又は進行していた。第一原告もまた訴外山田警備員の指示により停止していたが、その後、同原告は、同警備員の指示で発進し、前方の信号が赤色を呈していたため、一旦停止線で停止後、訴外河野警備員が左手に持つていた赤旗を引つ込め、右手に持つていた白旗を繰り返し大きく振り、同原告に対し進行を指示したため、同原告は右指示に従い、ゆつくりと前方に進行した。本件工事現場には工事用車両や機械などが置かれていたため、同原告には右手から進行してくる車両は全く見えず、同警備員の指示に従わざるを得ず、時速約二〇キロメートルの速度で本件交差点に進入したものである。

河野警備員の職務上の行為について、直接の雇用主である被告デネブは、民法七一五条の使用者責任を負い、被告桜井ガス及び同奥村組も同じく使用者責任を負う。すなわち、本件道路工事は、被告桜井ガスのガス工事であり、公道の道路工事の公共性(必然的に一般の歩行者、通行車両に著しい影響を及ぼす)から、同被告が本件道路工事を行うに当つては、道路法三二条により県知事の道路占用許可及び道路交通法七七条によつて所轄の警察署長の道路使用許可を得ることが義務付けられている。そして、被告桜井ガスは右両許可を得て、本件道路工事を行つているが、道路占用許可については、「工事中は、交通に支障のないように留意し、工事箇所前後には専従警備員を配置するとともに、前記所長並びに所轄警察署長の指示する標識、防護柵及び赤色灯を完備し事故防止に努めること」などが、道路使用許可については、「昼間、夜間、警備員を配置し、車両通行の円滑を図るとともに、事故防止に務めること」などがそれぞれ条件として付されており、警備員を配置し、事故防止に務めることは、被告桜井ガスの法律上の義務である。被告桜井ガスは、右法律上の義務に基づき、警備員配置及び事故防止を被告奥村組に委託し、さらに同被告が被告デネブに再委託したものであり、河野警備員の職務上の行為に関しては、被告桜井ガス、同奥村組がそれぞれ間接的指揮監督関係を有している。被告桜井ガスには、警備等の法律上の義務があるのであつて、第三者に委託して警備を行う場合には、直接警備を行う者を指揮監督する法律上の義務を負つており、同奥村義務も同委託を受けている以上、再委託する場合には、直接警備を行う者を指揮監督する責任を負うものである。

また、(業務に関し第二原告車を運転していた同原告の従業員)森川は、前方左側に立つていた河野警備員が白旗を大きく振つているのが見えたはずであり、前方を注意して、徐行しながら進行すべきであるのに、これを怠り、漫然と進行したために生じたものである。

(被告デネブの主張)

警備員は、交通巡査のように道路の交通整理をする権限を持たないのであり、その業務は、「人もしくは車両の雑踏する場所又はこれらの通行に危険のある場所における負傷等事故の発生を警戒し、防止する業務」であり、警備請負地域に警戒防止業務を負うに過ぎない。したがつて、警備員の過失により、交通事故が発生したというためには、交通法規の遵守を放棄させるような積極的誤導があり、その誤導を合理的なものと信じて運行した結果、事故が発生した場合に限られるのである。

本件において、警備員河野は、ガス工事区間が片側事故となつたため、相手方山田一男との間で工事区間の両端外側に立つて、白旗により、東行き車両は山田が発進の合図を、西行車両は河野が発進の合図を行つていた。河野は、西行車両誘導のため交差点内に立ち、南北方向から来る車両も含めて西行車両は交差点のすみに止めるなどして東行と交互に進行させていたのであり、東西信号が赤であるときは東行車両に進行の合図はしていないのである。したがつて、南北の信号が青の時は、東方向を向き、南北方向から来る西行車両を誘導しようとしていたのであり、警備員河野は、背後から赤信号を無視して東進する車両があるとは考えていなかつたところ、第一原告車は、同警備員の横を通り過ぎて、後尾を河野に向けて一・五メートル先に止つたのである。同警備員は、原告が自らの横を通り過ぎるまで白旗を振つていたわけではないし、仮に振つていたとしても、同原告は、同警備員の横を通り過ぎ、いつたん停止し、その後、信号を無視して同交差点に進入し、本件事故を生じさせたのであるから、同事故の全責任は同原告にある。

(被告桜井ガス・同奥村組の主張)

被告桜井ガス・同奥村組は、被告デネブ又はその雇用する訴外警備員に対し民法七一六条に規定する注文・指図をした事実はない。また、被告桜井ガス・同奥村組と、被告デネブ又はその雇用する訴外警備員との間には、元請けと下請けとの関係はない。被告奥村組は、あくまで土木工事施行を業とする会社であつて、交通整理等の警備業務について専門性も資格も全くなく、現場での指揮監督も一切していない。形式的にみても、被告奥村は、同桜井からガス管敷設工事を請け負つているに過ぎず、交通整理作業は、工事施行について付随的に必要となるものに過ぎないし、これを明確に請け負つたわけではない(なお、道路専用許可及び道路使用許可に示された条件は、行政庁から被告桜井に対して義務付けられたものであるが、万人に対し、被告桜井が義務を負担するものではないし、この条件の存在をもつて、同被告が注文者と元請けと下請けとの関係があると認定することはできない。)。

請負契約においては、請負人の広汎な専門的技術的裁量によりその仕事内容・手順が決せられるのであり、注文者の指揮監督関係がないことこそ常態であるから、注文者との間に指揮監督関係を認めるには、あくまで請負人との間に現実的かつ具体的な支配関係が認められるような従属関係が存在することが必要不可欠である。

被告奥村は、同デネブとの間に警備請負基本契約を交わし、警備作業一切を委ねていた。もとより、警備業務は専門性をもち、警備業法等の諸法規に通曉した資格者でなければできない作業であるため、そのような資格者もおらず教育もしていない被告奥村においてはこれをなし得ないことが明らかである。まず、同契約書第三条でわかるように、警備業務は、専門の教育を受けた者でなければできず、第四条にいう「甲の指示」とは、工事に際して警察等からの指示事項を警備会社に伝達することを意味し、被告奥村が自らの判断でそれ以外の指示を与えることを予定していない。第五条にいう警備日誌は、専ら勤務時間に基づく出来高払いの計算のためであるし、第七条の個別契約も実際には締結されず、被告奥村から同デネブを監督するに必要な資料を提出させてもいない。つまり、このような規定が契約書に存在するのは、注文者として請負人がきちんと仕事をするよう縛りかけたに過ぎず、現実に警備方法について指揮監督する可能性をもつためでは決してない。さらに、同契約書第一〇条には、被告奥村が賠償交渉に当たる旨の記載もあるが、これとて、同被告に責任があるためではなく、建築土木工事の常として苦情が施工者に持込まれることが多いため、その現実的処理として定められたものに他ならない。現実の本件工事現場の実態をみても、被告奥村は、同デネブ又はその警備員に対し、警備員の配置、人数、交通整理誘導の方法等、警備業務の内容に関して何ら指示を与えたことはないし、これを決められる立場にもない。また、被告奥村の現場監督は、まさに工事内容について作業員を監督するために派遣されているのであつて、警備員を指揮監督する立場にはない。したがつて、請負人たる被告デネブは独立した立場にあり、同奥村との間に現実的かつ具体的な支配関係が認められるような従属関係はもちろん、一般的な指導監督関係ないしその可能性もなかつた。なお、河野証人は、被告奥村の現場監督の指示で警備場所を決めていたと証言するが、これはガス工事の場合、日々工事箇所が移動するため、その工事場所の連絡を受けたという趣旨に過ぎない。

したがつて、被告奥村と同デネブ又は警備員の間に実質的な支配監督関係はなく、他方、被告桜井ガスは同デネブと何の契約もなく、訴外警備員に対し指揮又は監督できる立場には全くない。したがつて、被告奥村、同桜井ガスには、民法七一五条の責任は認められない。

(第二原告の主張)

本件において、森川の対面信号は青色であつたが、第一原告が警備員山田及び同河野の誘導により対面信号が赤色であつたにもかかわらず前方不注視のまま漫然と本件交差点に進入したために生じたものである。したがつて、本件事故は、専ら第一原告及び右警備員らの過失により生じたものであり、森川に過失はない。

二  その他損害額全般

第三争点に対する判断

一  責任原因及び過失相殺

1  第一原告、第二原告、被告デネブの責任の有無及び過失相殺

(一) 事故態様

甲第一五号証の一、二、検甲第一ないし第一四号証、証人林智博、同河野純太郎、同森川義治の各証言及び被告山田丈二の本人尋問の結果を総合すると、次の事実が認められる。

本件事故現場は、別紙図面のとおり、市街地にある東西に通じる片側一車線(片側幅員約三メートル)の道路(以下「東西道路」という。)と南北に通じる片側一車線(片側幅員約二・七五メートル)の道路(以下「南北道路」という。)との交差点にある。両道路は、制限速度が時速五〇キロメートルに規制され、路面は平坦でアスフアルトで舗装されている。両道路相互の見通しは良い。別紙図面のとおり、本件交差点西側の東西道路西行車線には工事現場があり(以下「本件工事現場」という。)、付近を通る車両は東行車線を通るほかはなかつた。

河野警備員は、山田警備員とともに本件工事現場に隣接する東行車線を走行する車両の安全を確保するため、山田警備員が同工事現場の西側に、河野警備員が同東側に立ち、警備業務を行つていた。東行車両は、南北信号が青色の時には同交差点西側、前記工事現場の北側にある停止線まで寄せておき、東西信号が青色になると、まず、西行車両を止めて、東行車両を四、五台通行させ、次に東行車両を止め、西行車両を通行させていた。

本件事故の直前、河野警備員は、本件事故当時、第一原告車を停止線まで進ませるよう山田警備員に対し、白旗を振つて合図をした。しかし、第一原告車は、同停止線で止まらず、そのまま河野警備員の横を低速で通り過ぎたが、同警備員がこれに気付きながら同車を阻止しなかつたところ、同車は、そのまま直進し、本件交差点に進入した。

森川は、第二原告である山田組に勤務し、本件事故当時、第二原告車を運転し、残土を捨てるため、時速約四〇キロメートルの速度で南北道路を北進し、本件交差点にさしかかつた。森川は、約八〇メートル前方の対面信号が青色を呈しているのを確認し、本件交差点に進入したところ、東西道路を東進し同交差点に進入して来た第一原告車を約八・二メートル前方に発見し、急制動の措置を講じたが及ばず、自車右前部を第一原告車右前部に衝突させ、そのまま、同車を同交差点北側まで約一七・四メートル引きずり停止した。

なお、本件交差点東側の東西道路上停止線で信号待ちをしていた目撃者である林智博は、当法廷において、警備員が第一原告車に向かい白旗を振つたので同車は発進したが、右は誰が見ても進行せよとの合図に見え、同車は時速三〇ないし四〇キロメートルの速度で同交差点に進入し、警備員は同車が自己の横を通過するまで白旗を振り続けていた旨証言している。

(二) 責任原因及び過失相殺

(1) 以上の事実に基づき、第一原告、第二原告及び森川の過失の有無、過失割合について検討すると、第一原告には、東西道路の前方の信号が赤色を呈しているにもかかわらず、河野警備員が振つた白旗を見て交差点に進入できるものと軽信し、同交差点に進入したものであつて、前方の信号が赤色を呈していたにもかかわらず、同警備員の白旗を軽信し、本件交差点における(信号機による)交通整理の状況、南北道路を走行する車両の有無、動静に対する確認が不十分なまま、同交差点に進入した過失があるものといわざるを得ない。

また、山田警備員及び河野警備員は、相互に連絡を取合い、東西道路を東進する車両は、同道路の信号が青に変わるまでの間、停止線で停止(ないし停止を継続)させるべきであつたのに、第一原告車が同線を通過するのを放置したのであるから、同車を右一時停止線で停止(ないしその継続を)させなかつた過失があるというべきである。また、河野警備員は、山田警備員に対し、前記停止線まで車両を移動させるべく白旗を振つて合図をしたところ、第一原告車は、同停止線で止まらず、そのまま河野警備員の横を通り過ぎたのを見たのであるから、同原告が白旗の合図をそのまま進行しても良いとの合図と誤信したことに気付き得たものと言わざるを得ず、ただちに同車を阻止し、同停止線ないしその付近まで後退させるか、少なくとも同車がそれ以上同交差点に進入するのを阻止すべきであつたのに、かかる措置を講じなかつた過失があるものというべきである。

これに対し、森川は、南北道路を北進中、本件交差点の対面信号が青色を呈しているのを確認し、同交差点に進入したものであるから、特段の事情がない限り、赤色を呈している東西道路から同交差点に進入してくる車両はないものと信頼して自車を走行することが許されると解すべきであり、右特段の事情が認められない本件においては、本件事故の発生に関し、過失があるとは認められず、第二原告の責任も否定されるべきである。

(2) そして、第一原告と警備員山田・同河野の過失割合について検討すると次のとおりである。

まず、本件では、本件交差点が工事現場そのものではなく、同現場を通過したすぐ先にあり、東西道路の対面の信号が赤色を呈していたとはいえ、同工事現場と同交差点とは車両の往来において密接な関係にあつたのであり、前記警備員らは、直接には同工事現場に関し交通整理をしていたものではあるが、それにとどまらず同工事現場から同交差点へと進入する車両を同工事現場付近において規制し、逆に同交差点から同工事現場へと進出してくる車両を同工事現場において誘導していたとみざるを得ず、さらに、一般の運転者にとつてかかる警備員の規制・誘導は高く信頼され、実際上、右規制・誘導に従わざるを得ないのが通例であることを考慮すべきである。

前記認定によれば、前記警備員は、東西道路を東進し、同交差点に進入しようとした第一原告を、本来停止させるべき前記停止線で停止させず、その先の警備員も白旗を振り、同交差点に進入することが許されると誤信するような状況を作り出しながら、何ら同車がそのまま同交差点に進入するのを阻止しなかつたことが認められる。したがつて、安易に右白旗を誤信し、対面の信号が赤色を呈しているのにそのまま同交差点に進入した第一原告の過失も必ずしも軽いとはいえないものの、同原告がかかる誤信をする状況を作出したにもかかわらず、事故を防止する措置を講じなかつた前記警備員の過失の方はより重大であるといわざるを得ないから、第一原告と右山田・同河野(ひいては、その使用者である被告デネブ)との過失割合は、四対六と認めるのが相当であり、後記本件事故による第一原告の損害から同割合を減額すべきである。

2  被告桜井ガス・同奥村組の責任

(一) 乙第七・第八号証によれば、被告桜井ガスは、平成二年一一月二二日、桜井警察署長から、県道大三輪十市線(本件東西道路)及び同桜井田原本王寺線(本件南北道路)につき、地下埋設物既設箇所の掘削(ガス工事)に際し、昼間、夜間警備員を配置し、車両交通の円滑を図るとともに、事故防止に努めるなどの条件のもとに片側通行(交互通行・全車両)の道路使用許可を得たこと、また、平成三年一月八日、奈良県知事から通行規制の細部事項については、所轄警察署長と協議の上実施するとともに別途所轄警察署に申し出て道路使用許可を得ること、工事中は交通に支障のないよう留意し、工事箇所前後には専従警備員を配置するとともに、所轄警察署長の指示する標識、防護柵及び赤色灯を完備し事故防止に努めることなどの条件のもと道路敷地占用許可を得たことがそれぞれ認められる。

(二) 乙第五、第六号証、によれば次の事実が認められる。

被告奥村は、同デネブとの間に警備請負基本契約を交わしていたが、その要旨は、次のとおりである。

被告奥村と同デネブとの間には、工事区間内において、歩行者と通行車両を安全に誘導すること等を目的として警備請負基本契約が締結され(一条一項)、同デネブは、交通整理業務を十分遂行することができる警備員を服務させなければならないものとされ(三条)、被告デネブは、交通整理誘導について同奥村の指示を守らせるよう指導・監督しなければならないとされ(四条)、同デネブは、警備状況を同奥村組に報告するため、毎日、作業終了後に警備日誌を作成し、警備員記名捺印の上同奥村組に提出し、確認を受けるものとされ(五条)、同奥村組は、事故発生のおそれがあるものについては、事前に同デネブに事故防止方策等必要な注意事項を通知し、その内容に基づく警備実施は同デネブの同意を要し、かつ、同デネブは、警備場所において、事故が発生し、または、そのおそれがある時は、直ちに同奥村組に通知し、同奥村組はこれに対処する措置を講じなければならないとされ(六条)、同デネブが本契約及び覚書に基づく警備中に、自己の不法行為又は本契約の債務不履行により、歩行者、通行車両、運転者、同奥村組の作業員等に身体及び財産上の損害を与えた場合は、同奥村組が、直接、賠償交渉、その他の問題解決に当たり、同デネブは後日速やかにその賠償額を同奥村組に填補し、同デネブは、前項の損害賠償填補に際して、その損害額を保険会社との保険契約により填補することを予定している場合は、保険会社との保険証券を本契約締結時に同奥村組に提出し、その承認を受けるものとし、同奥村組が本契約及び覚書の約定に違反したために発生した損害については、同デネブはその責を免れるものとされ(一〇条)、損害賠償の責めを伴う事故、災害が発生した場合は、同奥村組はその事実を知つた日から七日以内に同デネブに通知し、損害総額、同奥村組又は同デネブの損害賠償責任負担区分等詳細については、確定次第、速やかに書面をもつて通知し、同奥村組が右通知を怠つた時は、同デネブは賠償責任を免れるものとされている(一一条)。

他方、乙第六号証及び証人井上忠孝の証言によれば、本件工事現場は、被告奥村組の中央建設事務所の担当であり、同社の従業員である藤井正樹が現場監督であつたところ、右藤井は、時折、工事現場に赴き、車両の規制、誘導に関する警備員の措置が不適切ないし事故発生の危険があると判断した場合には適切な措置をするよう述べ、誘導の方法が特殊である場合には同社の担当者と協議するなどの対応をしていたが、交通整理の細目は被告デネブに委ね、事細かな指示はしておらず、その他、事故防止方策等必要な注意事項の通知等は特に行つていなかつたことが認められる。

(三) 以上により、被告奥村組の責任を判断すると、同被告と同デネブは、工事区間内において、歩行者と通行車両とを安全に誘導することを目的とする警備請負基本契約を締結し、被告奥村組の指示に従い、被告デネブに属する交通整理誘導業務を十分遂行することができる能力を有する警備員が歩行者と通行車両とを安全に誘導する業務を行い、同デネブは、警備状況と同奥村組に報告するため、毎日、作業終了後、警備日誌を作成し、警備員記名捺印の上、同奥村組に提出し、その確認を受けるものとされ、右業務に際し損害が生じた場合には、同奥村組が賠償交渉に当たり、同デネブは後日賠償額を填補することとし、同奥村組と同デネブとの損害賠償責任の負担区分等については、確定次第速やかに同奥村組から同デネブに書面により通知することが定められていたにもかかわらず、被告奥村組の担当者が時折工事現場に時折赴いてはいたものの、十分な指導・監督をしないでいたところ、本件事故が発生したものである。したがつて、被告奥村組には、被告デネブ及び同社が派遣した警備員に対し、事故発生を防止するよう指導・監督する権限を有していたが、右権限を的確に行使しないでいたところ、前記のとおり、同社の警備員らが業務遂行中、過失により本件事故を発生させたことが認められるから、本件事故により発生した損害につき、民法七一五条に基づく賠償責任を負担するものと認めるのが相当である(同債務は、被告デネブの債務と、不真正連帯債務の関係を有することになり、また、過失割合も同被告と同様となる。)。

(四) これに関し、被告奥村組は、警備業務は、専門の教育を受けた者でなければできないのであり、同被告の指示とは、工事に際して警察等からの指示事項を警備会社に伝達することを意味し、自らの判断でそれ以外の指示を与えることを予定しておらず、契約書の規定は、注文者として請負人に対し誠実な業務をするよう縛りをかけたに過ぎず、現実に警備方法について指揮監督する可能性をもつていたためではないし、被告奥村が賠償交渉に当たる旨の記載とて、同被告に責任があるためではなく、建築土木工事の常として苦情が施工者に持込まれることが多いため、その現実的処理として定められたものに他ならず、また、現実の本件工事現場の実態をみても、被告奥村は、同デネブ又はその警備員に対し、警備員の配置、人数、交通整理誘導の方法等、警備業務の内容に関して何ら指示を与えたことはなく、これを決められる立場にはないものであり、被告奥村組の現場監督は、まさに工事内容について作業員を監督するために派遣されているのであつて、警備員を指揮監督する立場にはなく、請負人たる被告デネブは独立した立場にあり、同奥村との間に現実的かつ具体的な支配関係が認められるような従属関係はもちろん、一般的な指揮監督関係ないしその可能性はなかつたと主張する。

しかし、同契約は、被告奥村組と同デネブとが共に損害賠償責任を負担し得ること、損害賠償の交渉は、同奥村組がなし、同デネブが後日補填することを明記しているのであり、かかる条項をもつて同奥村組が、損害賠償責任を負担することを前提とするものではなく、施工者としての苦情処理に当たることを定めたものと解することはできない。また、被告奥村組の同デネブに対する指示は、交通整理誘導そのものについての指示とみるのが自然であり、何ら限定が付されていない以上、単に警察からの指示事項を伝達するだけのものとは解し難いし、かえつて、同デネブは、警備状況と同奥村組に報告するため、毎日、作業終了後、警備日誌を作成し、警備員記名捺印の上、同奥村組に提出し、その確認を受けるものとされており、同デネブは、警備場所において、事故発生のおそれがあるときは、直ちに同奥村組に通知し、同奥村組はこれに対処する措置を講じなければならないなどとされているのであるから、同奥村組の前記主張は到底採用できない。

(五) 他方、被告桜井ガスの責任について検討すると、同被告は、工事の注文者として、道路の専門許可に当たり、工事区間内の交通の安全を図るべき義務を負担したものと認められるが、右義務は道路の専用許可の条件であり、公法上の義務に過ぎず、同義務により被告デネブへの指揮監督権限が直ちに生ずるわけではないから、同義務の存在のみで同被告の使用者責任を根拠付けることはできない。そして、同被告は、右工事の具体的実施につき、請負契約により、奥村組に委ねているのであつて、本件における関係証拠上、同被告と被告デネブとの間に、何らかの契約関係が存在していたとは認められず、同被告が被告デネブの従業員である前記警備員らに対し、指揮・監督をし得る権限を有していたことを認めるに足る証拠はない。したがつて、前記警備員らの過誤により生じた本件事故に関し、被告桜井ガスの損害賠償責任を認めるに足る証拠はない

二  第一原告の損害

1  治療費(主張額二万九四八〇円)

甲第三号証の一ないし四によれば、第一原告は、本件事故により治療費として二万九四八〇円を支出したことが認められる。

2  通院費(主張額一万五〇四〇円)

甲第一一号証の一、二及び同第一二号証の一、二よれば、第一原告は、本件事故による通院のためタクシー代として合計九万八三〇〇円を支出したことが認められる。しかし、甲第二号証によれば、本件における第一原告の傷害は加療約一週間を要する頭部打撲、前額部挫創、右手挫創、右前腕打撲に過ぎず、右傷害の内容・程度に照らし、タクシーによる通院の必要性、相当性を認め難く、他に、これを認めるに足る証拠はないから、右支出と本件事故との相当因果関係を認めることはできない。

3  原告車輌処理費用(主張額三万五〇〇〇円)

甲第七号証の一、二によれば、第一原告は、本件事故により破損した第一原告車の本件事故現場からの移動のため、三万五〇〇〇円を負担したことが認められる。

4  原告車輌保管費用(主張額六万二〇〇〇円)

甲第八号証の一、二、第九号証によれば、第一原告は、本件事故により破損した第一原告車の保管、自宅への移動のため六万二〇〇〇円を負担したことが認められる。

5  物損(主張額九三万八〇九五円)

甲第六号証によれば、第一原告は、第一原告車と同等の車両を購入した場合、第一原告車の本件事故時の中古車価格である七五万円、その消費税として二万二五〇〇円、登録料として三万八五〇〇円、その消費税として一一五五円、自動車税として三万六二〇〇円、取得税として一万二〇〇〇円、重量税として三万六八〇〇円、自賠責保険料(二四か月)として三万八二〇〇円、法定費用として二七四〇円を要することが認められる。右のうち、自動車税、自賠責保険料は、還付制度が存在するので損害として考慮するのは適当ではなく、登録料及びその消費税は、業者の手数料を除けば五〇〇〇円程度であることが通例であるから、その限度で損害として考慮すれば足りるものと解される。したがつて、右のうち、本件事故と相当因果関係のある損害は、八二万九〇四〇円となる。

6  逸失利益(主張額二八五万三〇〇〇円)

第一原告は、甲第二号証及び同原告本人尋問の結果によれば、昭和三年九月一日に生まれ、山守の仕事に従事しており、本件事故当時六二歳であつたこと、本件事故により加療約一週間を要する頭部打撲、前額部挫創、右手挫創、右前腕打撲の傷害を負つたことが認められるところ、本件事故の年である平成三年の賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・学歴計・男子労働者の六〇歳から六四歳までの平均賃金は、四一〇万五九〇〇円であるところ、同原告の本件事故当時の労働能力を評価すると、右金額を下まわらないものと解するのが相当である。したがつて、本件事故による同原告の休業損害は、次の算式のとおり、七万八七四三円と認められる(一円未満切り捨て、以下同じ)。

4105900÷365×7=78743

なお、同原告は、甲第一四号証、第一六号証を根拠に、本件事故により平成三年三月二一日に山元住宅株式会社との間で契約(契約期間約四か月、請負金額二八五万三〇〇〇円)していた山林管理作業請負契約を解約されたから、同契約による請負金額二八五万三〇〇〇円が損害となる旨主張する。しかし、第一原告本人尋問の結果によれば、右会社の代表取締役である新井広一は、養子に行つた同原告の実弟であり、本件事故の三週間前に山林管理契約として一件のみ契約していたとする同契約は、締結の相手方、締結時期の他、契約期間の割に請負金額が多額であるなどその成立自体にかなりの疑念を差し挟む余地がある上、前記わずか加療一週間程度の傷害のために何故に約四か月の管理期間を予定している同契約を解約する必要があつたのかが不明であり、右主張する損害と本件事故との相当因果関係を認めるに足る証拠はないものといわざるを得ない。

7  慰謝料(主張額一〇〇万円)

本件事故の態様、第一原告の受傷内容と治療経過、同原告の職業、年齢及び家庭環境等、本件に現れた諸事情を考慮すると、慰謝料としては、一〇万円が相当と認められる。

8  小計

以上1ないし7の損害を合計すると、一一三万円四二六三円となる。

9  過失相殺、弁護士費用

前記認定のとおり、過失相殺により、本件事故により生じた損害から四割を減額するのが相当であるから、同減額を行うと残額は、六八万〇五五七円となる。

本件の事案の内容、審理経過、認容額その他諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としての損害は七万円が相当と認める。

前記損害合計六八万〇五五七円に右七万円を加えると、損害合計は七五万〇五五七円となる。

三  第二原告の損害

1  修理代(主張額一一四万〇三三〇円)

丁第一号証によれば、第二原告は、本件事故により修理費として一一四万〇三三〇円を負担したことが認められる。

なお、被告デネブは、丙第二号証を根拠に第二原告車の本件事故当時の時価は一一一万円ないし一一六万円であるから、同原告の損害は右限度にとどまる旨主張するが、右額は平成三年一一月ないし同年一二月の時点でのものであり、丁第五号証によれば、本件事故時である同年四月当時の時価は一五三万円であり、前記修理価額を上回ることが認められるから、右主張は採用できない。

2  レツカー代(主張額一万五四五〇円)

丁第三号証によれば、第二原告は、本件事故により破損した第二原告車を移動する費用として一万五四五〇円を負担したことが認められる。

3  代車代(主張額三五万七〇七一円)

丁第四号証によれば、第二原告は、本件事故により破損した第二原告車の代車料として合計三五万七〇七一円を負担したことが認められる。

4  評価損(主張額三五万円)

前記認定によれば、第二原告車は、本件事故によりほぼ時価に近しい修理費を要したことが認められるから、修理によつては完全な回復が不可能な評価損が生じたものと認めるのが相当であり、同損害は、修理費のほぼ二割に相当する二三万円が相当と認める。

(以上の損害合計) 一七四万二八五一円

5  弁護士費用

本件の事案の内容、審理経過、認容額その他諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としての損害は一七万円が相当と認める。

前記損害合計一七四万二八五一円に右一七万円を加えると、損害合計は一九一万二八五一円となる。

四  まとめ

以上の次第で、第一事件原告の同事件被告奥村組及び同株式会社デネブに対する請求は、七五万〇五五七円及びこれに対する本件事故の日である平成三年四月一〇日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれらを認容し、同原告の被告桜井ガス及び同山田丈二に対する請求及びその余の請求は理由がないからいずれも棄却することとし、第二事件原告の被告被告奥村組、同デネブ及び第一原告に対する請求は、一九一万二八五一円及びこれに対する本件事故の日である平成三年四月一〇日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度でそれぞれ理由があるからこれらを認容し、同原告の被告桜井ガスに対する請求及びその余はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 大沼洋一)

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